糖尿病治療薬として広く知られるメトホルミン。

近年「メトホルミンダイエット」という言葉も聞かれるようになり、本来の適応外での使用に関心が高まっています。
体重減少効果があるとされるこの薬剤は本当に効果的なのでしょうか。
また使用上のリスクはどのようなものでしょうか。

本記事では医学的根拠に基づき、メトホルミンの効果や作用機序、医療ダイエットでの位置づけを詳しく解説します。
糖尿病患者だけでなく非糖尿病者にとっての有効性や安全性についても検証し、薬剤選択の判断材料を提供します。

体重管理に悩む方、減量方法を探している方にとって必読の内容です。

メトホルミンとは

メトホルミンはビグアナイド系に分類される経口血糖降下薬で、2型糖尿病治療の第一選択薬として世界中で広く使用されています。

その歴史は古く、1922年に発見されましたが、インスリンの登場により一時忘れられた時期もありました。
1950年代にフランスのジャン・ステルヌ博士によって糖尿病治療薬としての可能性が見出され、1959年にフランスで初めて承認されました。
日本では1961年に承認され、現在では高用量製剤も含め複数の剤形が使用可能です。

メトホルミンは比較的安価で有効性が高いことから、世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストにも収載されています。
日本国内での主な商品名には、先発品としてメトグルコ®(住友ファーマ)、グリコラン®(日本新薬)があり、後発医薬品も多数流通しています。
海外ではグルコファージ®(「糖を食べるもの」の意)の名称で知られています。

特筆すべきは、同じビグアナイド系の薬剤であるフェンホルミンやブホルミンが重篤な副作用により市場から撤退した歴史です。
メトホルミンはこれらよりはるかに安全性が高いことが証明されていますが、この歴史的背景が慎重な使用基準の設定につながりました。
1998年のUKPDS研究で長期的な心血管系への利益が示されたことで、第一選択薬としての地位が確立しました。

医療ダイエットにおけるメトホルミンの位置付け

医療ダイエット(メディカルダイエット)とは、医師の管理下で行われる体重管理法を指し、処方薬や医療機器の使用を伴うことがあります。
単なる美容目的の痩身とは異なり、医学的評価に基づいて行われる点が特徴です。
日本の診療ガイドラインでは「肥満」と「肥満症」を区別しており、「肥満」はBMI 25 kg/m²以上と定義されますが、それだけでは医学的介入の対象となりません。
一方「肥満症」は肥満に加えて糖尿病や高血圧などの健康障害を合併している状態で、医学的な減量治療が必要とされます。

メトホルミンは主に2型糖尿病の治療薬であり、体重に対しては減少効果または中立的な影響をもつことが知られています。
しかし肥満症治療薬として承認されているわけではありません。
インスリン抵抗性や耐糖能異常、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、抗精神病薬による体重増加を有する非糖尿病患者に対して、体重管理目的で適応外使用されることがあります。

最近注目を集めるGLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)と比較すると、メトホルミンの役割は異なります。
GLP-1受容体作動薬はより強力な体重減少効果を示し、一部は肥満症治療薬として承認されています。
メトホルミンはより軽度の体重管理目標やコスト重視の場合、あるいはGLP-1受容体作動薬への追加療法として考慮されることがあります。

実際の医療現場では、保険適用の有無がメトホルミン選択に大きく影響します。
糖尿病や肥満症治療の一環であれば保険診療の可能性がありますが、健康な非糖尿病者が体重減少のみを目的として使用する場合は適応外の自由診療となるのが一般的です。
この経済的・制度的側面が臨床現場での選択肢としての実際の立ち位置を決定づけています。

メトホルミンの効果と作用機序

メトホルミンの血糖降下作用は主に肝臓での糖新生抑制、消化管からの糖吸収抑制、および末梢組織でのインスリン感受性改善によってもたらされます。
インスリン分泌を直接刺激しないため、単独使用では低血糖リスクが低いことが特徴です。
その作用機序は多岐にわたり、臨床的な濃度と実験室的な高濃度での作用の違いなど、完全には解明されていない点も多く存在します。

特に近年は腸内環境への影響や、食欲抑制作用に関する新たな知見が蓄積されています。
これらの多面的な作用が、血糖コントロールだけでなく体重にも影響を与えると考えられています。
臨床的には体重減少効果または体重中立の効果をもたらすことが多くの研究で示されていますが、その程度は限定的です。

メトホルミンの作用は単に肝臓や末梢組織に留まらず、腸内細菌叢、腸管の糖輸送、腸管ホルモン分泌といった「腸」を中心としたメカニズムにも深く関わっています。
この「腸管中心」の視点は、服用時にしばしば見られる消化器症状の理由を説明する一助となる可能性があります。

血糖値改善作用

メトホルミンの主要な血糖降下作用は、肝臓における糖新生の抑制です。
その抑制メカニズムとして複数の経路が提唱されています。

従来はメトホルミンが高濃度でミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを阻害し、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を活性化すると考えられてきました。
しかし、この経路が臨床濃度で主要な役割を果たすかについては疑問視されています。
近年、臨床的に到達しうる濃度(50-100 μM)で重要視されているのは、ミトコンドリアのグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(mGPDHまたはGPD2)の阻害を介する機序です。

mGPDHの阻害は細胞質内のNADH/NAD⁺比を上昇させ、乳酸やグリセロールといったNAD⁺を必要とする基質からの糖新生を選択的に抑制します。
アラニンなどレドックス状態に依存しない基質からの糖新生は抑制されにくいため、これがメトホルミン単独での低血糖リスクが低い一因と考えられています。

加えて、メトホルミンは末梢組織(主に骨格筋)でのインスリン感受性を改善し、インスリンによるグルコース取り込みを促進します。
この作用にはAMPKの活性化やインスリンシグナル伝達に関わるSHIP2の阻害が関与している可能性が示唆されています。

体重減少メカニズム

メトホルミンに関連する体重減少のメカニズムは複合的で、以下の因子が関与すると考えられています。

最も注目される経路はGDF-15(Growth Differentiation Factor 15)を介したものです。
メトホルミンはこのサイトカインの血中濃度を上昇させることが複数の研究で示されています。
GDF15は脳幹のGFRAL受容体に作用し、食欲を抑制して食物摂取量を減少させると考えられています。
特に遠位小腸でのGDF15産生促進が関与している可能性が示唆されており、この経路はメトホルミンの食欲抑制および体重減少効果において重要です。

視床下部におけるAMPK活性化も食欲調節に関与する可能性が考えられますが、体重減少における直接的な役割はGDF15ほど明確ではありません。
AMPKは全身のエネルギー恒常性維持にも関わっています。

食欲抑制効果については、GDF-15を介した中枢性の作用が主と考えられますが、後述する腸管ホルモン(GLP-1など)への影響や消化管への直接作用も食欲低下に寄与する可能性があります。
エネルギー消費についても、GDF15が影響を与える可能性や、空腹時の呼吸商低下の報告から脂肪酸酸化の亢進が示唆されています。

腸内環境への影響

近年、メトホルミンの作用機序において消化管の役割が注目されています。
メトホルミンは腸内細菌叢の構成や機能を変化させることが知られており、特定の細菌種の増減により酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)の産生が増加することが報告されています。
これらのSCFAは宿主の代謝改善に寄与する可能性があります。

神戸大学の研究グループによる最近の報告では、メトホルミンが腸管内腔(特に空腸から回腸、大腸へ)へのグルコースの排出を促進するという新たな機序が提唱されています。
排出されたグルコースは腸内細菌の栄養源となり、SCFA産生をさらに促すと考えられています。
メトホルミン服用者では非服用者と比較して腸管内腔へのFDG(グルコース類似物質)排出量が約3倍に増加したと報告されています。

また、メトホルミンは腸管のL細胞からのインクレチンホルモン(GLP-1など)の分泌を促進する可能性があります。
これは腸管でのAMPK活性化や胆汁酸代謝の変化などを介すると考えられ、血糖コントロールと満腹感の両方に寄与します。

これらの知見は、メトホルミンの作用が「腸」を中心としたメカニズムに深く関わっていることを示唆しています。
作用機序が複数存在し活性がメトホルミンの濃度によって異なる可能性があることは、臨床効果や副作用の発現に個人差が見られる理由の一つと考えられます。

メトホルミンのダイエット効果

メトホルミンは一部の糖尿病治療薬(スルホニル尿素薬、インスリン、チアゾリジン薬など)が体重増加を引き起こすのとは対照的に、体重減少または体重中立の効果を示すことが一貫して報告されています。
しかし、その効果の大きさは「軽度(modest)」であることを認識しておく必要があります。
糖尿病患者と非糖尿病者では効果の現れ方に違いがあり、様々な研究から得られた知見を検証します。

糖尿病患者における体重変化

Diabetes Prevention Program (DPP) 研究は、2型糖尿病発症高リスク者を対象とした大規模臨床試験です。

この研究ではメトホルミン群(850mg 1日2回)はプラセボ群と比較して、平均約2.8年の追跡期間中に平均2.1 kgの体重減少を示しました(体重変化率:メトホルミン群 -2.06% vs プラセボ群 +0.02%)。
さらに、長期追跡研究であるDPPOS(約10~15年)においても、メトホルミン群ではベースラインからの体重減少が平均2.0~2.5 kg程度維持されていました。
この研究ではメトホルミンの服薬遵守率が高いほど体重減少効果が大きいことも示されました(高遵守群ではベースラインから平均3.5%減少)。

また、United Kingdom Prospective Diabetes Study (UKPDS)では、メトホルミンはスルホニル尿素薬(グリベンクラミド)による体重増加と比較して、体重中立の効果を示しました。

その他の研究やレビューでも、メトホルミンによる体重減少は平均1~3 kg、あるいはベースライン体重の2~3%程度と報告されています。
いくつかの比較試験では、メトホルミン投与により4年間で平均2.7 kgの減少(ロシグリタゾンやグリブリドは増加)、あるいは29週で平均3.8 kgの減少(スルホニル尿素薬は変化なし)といった結果も報告されています。
抗精神病薬誘発性体重増加(AIWG)患者を対象としたメタアナリシスでは、メトホルミンの追加により12~24週間で平均3.3 kgの体重減少が見られました。
一方で、セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬との併用は、メトホルミン単独よりも有意に大きなBMI低下をもたらすことが示されています。

非糖尿病者での使用例と結果

メトホルミンは肥満、PCOS、AIWGなどの非糖尿病状態においても、体重管理目的で適応外使用されることがあります。
複数のランダム化比較試験(RCT)を統合した解析では、プラセボと比較してメトホルミン(500~2550 mg/日)は統計学的に有意なBMIの低下(平均差 -0.56 kg/m²)と関連していました。
1700 mg/日の用量では、BMI変化率が-2.53%でした。生活習慣改善(LSM)との比較では有意差はなく、肥満治療薬オルリスタットはメトホルミンよりも効果的でした。

別のレビューでは、メトホルミンはBMIパーセンタイルを有意に低下させ、BMI(kg/m²)および体重(kg)を低下させる傾向があることが示されました。
ネットワークメタアナリシスでは、青年では1000 mg/日(3ヶ月)、成人では3000 mg/日(6ヶ月)または1000 mg/日(0.5ヶ月)が最適な可能性が示唆されましたが、エビデンスの質にはばらつきがあります。

PCOS患者を対象としたメタアナリシスでは、プラセボと比較してメトホルミンは軽度ながら有意なBMI低下(平均差 -0.53 kg/m²)を示し、特に高BMIの患者において生活習慣介入への有効な補助療法となりうることが示唆されました。
AIWG患者を対象としたメタアナリシスでは、プラセボと比較してメトホルミンは有意な体重減少(成人で4.8%、小児で4.1%)をもたらし、特にベースラインで10%以上の体重増加があった患者で効果が大きい可能性が示されました。

個別の研究結果は様々です。小規模・短期間の研究ではプラセボとの有意差が見られなかったものもあります。
一方で、1年間の投与で2 kgの減少(BIGPRO研究、P<0.06)、低カロリー食との併用で1ヶ月間にプラセボより2.8 kg多く減少、非糖尿病肥満者31名に2.55g/日を28週間投与し平均13ポンド(約5.9 kg)の有意な減少といった報告もあります。

これらの臨床エビデンスを総合すると、メトホルミンはプラセボや体重増加作用のある薬剤と比較して、統計学的に有意な体重減少効果を一貫して示していますが、その効果の大きさは「軽度」で、通常は1~3 kg、あるいはベースライン体重の2~5%の範囲に留まります。

メトホルミンの副作用とリスク

メトホルミンは適切に使用されれば安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用やリスクが存在します。

最も頻度が高いのは消化器症状であり、下痢、悪心(吐き気)、嘔吐、腹痛・腹部不快感、腹部膨満感、鼓腸(ガス)、消化不良、食欲不振、口中の金属味などが報告されています。

これらの症状は服用開始時や増量時に現れやすく、時間経過とともに軽快・消失する傾向があります。
対処法としては、低用量から開始しゆっくりと増量する、食後に服用する(特に夕食後)、消化器症状が持続する場合は徐放性製剤(ER/XR)への変更を検討するなどが挙げられます。
消化器症状による脱水にも注意が必要です。

重篤な副作用として最も注意すべきは乳酸アシドーシス(MALA)です。
頻度は稀ですが、発症すると致死率が高い(約10%から50%)重篤な副作用であり、FDAによる黒枠警告(Boxed Warning)が付与されています。
主に腎機能障害によるメトホルミンの体内蓄積が原因となります。
歴史的には発生頻度は低く、10万人・年あたり3~10例程度と報告されていますが、禁忌を有する患者への使用が背景にある場合は実際には報告よりも高い可能性があります。

乳酸アシドーシスの最大の危険因子は重度の腎機能障害(eGFR < 30 mL/min/1.73m²)で、これは投与禁忌とされています。
その他、中等度の腎機能障害、重度の肝機能障害、乳酸アシドーシスの既往、急性または不安定な心不全、低酸素血症を伴いやすい状態、脱水症、過度のアルコール摂取、ヨード造影剤使用前後、大手術前後、重症感染症などがリスク因子または禁忌とされています。

症状は非特異的で、高度の倦怠感、筋肉痛、呼吸困難(過呼吸)、めまい、悪心、嘔吐、腹痛、意識障害、体温低下などがみられます。
これらの症状が現れた場合は直ちに服用を中止し医療機関を受診する必要があります。

その他の副作用として、長期使用によるビタミンB12欠乏症(約7%の患者で報告)があります。
まれに巨赤芽球性貧血を引き起こす可能性があるため、長期使用者では定期的なB12レベルのモニタリングが推奨されます。
単独投与では稀ですが、他剤との併用や食事摂取不足などで低血糖を起こすリスクもあります。
その他、肝機能障害・黄疸、過敏症反応、横紋筋融解症なども稀に報告されています。

メトホルミンの安全な使用には、個々の患者のリスク因子を評価し、それに基づいて使用の可否や注意点を判断することが重要です。

メトホルミンダイエットはおすすめできない理由

メトホルミンを糖尿病やPCOSなどの基礎疾患がない健康な人が純粋な体重減少目的で使用することは一般的に推奨されません。
その理由はいくつか挙げられます。

まず、効果の限定性が大きな要因です。
前述の通り、メトホルミンによる体重減少効果は平均して1~3 kg、あるいは体重の2~5%程度と軽度です。
これはセマグルチド(ウゴービ®/オゼンピック®)のような肥満症治療薬として承認され15%以上の体重減少も期待できる新しい薬剤と比較すると大幅に見劣りします。
顕著な体重減少を期待する個人のニーズを満たす可能性は低いと言えます。

統計学的にはプラセボに対する優位性が示されているものの、絶対的な体重減少量が少ないため、臨床現場で観察される効果の一部にはプラセボ効果や健康意識の向上などが影響している可能性も否定できません。

また、適応外使用のリスクも重要です。
メトホルミンは米国FDAや日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)によって非糖尿病者の体重減少目的での使用は承認されていません。
このような適応外使用は医師の裁量の範囲内で行われることがありますが、倫理的な配慮や潜在的なリスクを伴います。
糖尿病や顕著な代謝異常がない個人にとって、軽度な体重減少という期待されるベネフィットが、消化器症状や稀ではあるが重篤な乳酸アシドーシス、ビタミンB12欠乏といったリスクを必ずしも上回るとは限りません。

特に健康な人を対象とした体重減少目的での長期的な安全性と有効性に関する質の高いデータは不足しています。
また「ダイエット薬」として安易に広まると、医学的な監督なしでの自己判断による使用につながる懸念もあります。

根本的に、体重管理の基本はバランスの取れた食事と定期的な運動といった生活習慣の改善であり、薬剤はあくまで補助的な位置づけであるべきです。
特にメトホルミンのように効果が限定的な薬剤の場合、生活習慣の改善なしに薬剤のみに頼るアプローチは効果が乏しく持続可能でもない可能性が高いです。

実際に一部の医療機関のウェブサイトでは「メトホルミンダイエット」は推奨しない、あるいは健康な人の使用は賢明ではないといった見解が示されています。
メトホルミンをダイエット目的で推奨できない根拠は、リスクとベネフィットのバランスが適応疾患を持つ患者と単に体重を減らしたい健康な個人とでは大きく異なる点にあります。

他の医療ダイエット薬との比較

医療ダイエットで使用される薬剤はいくつかありますが、近年特に注目されているGLP-1受容体作動薬とメトホルミンを比較します。
効果面でもコスト面でも大きな違いがあり、適切な選択には様々な要素を考慮する必要があります。

セマグルチド系との効果比較

体重減少効果において、セマグルチドはメトホルミンを大幅に上回ります。
肥満症治療薬として承認されているウゴービ®(セマグルチド 2.4mg 週1回注射)の臨床試験では、平均して15%以上の体重減少が報告されています。
糖尿病治療薬であるオゼンピック®(セマグルチド 最大2mg 週1回注射)を用いた研究でも、他の多くの糖尿病薬よりも優れた体重減少効果が示されています。
これに対し、メトホルミンによる体重減少は通常2~5%程度です。
メタアナリシスでも、GLP-1受容体作動薬はメトホルミンよりも優れた体重減少効果をもたらすことが確認されています。

作用機序にも違いがあります。
セマグルチドは体内で分泌されるホルモンGLP-1の作用を模倣し、脳の食欲中枢に直接作用して食欲を抑制し、胃内容排出を遅らせることで満腹感を高めます。
メトホルミンの体重への影響は、GDF-15を介した食欲抑制、腸内細菌叢への影響、インスリン感受性改善など、より間接的で多面的な機序によると考えられています。

効果発現の速さも異なります。
一般的にGLP-1受容体作動薬は比較的早期(3~6ヶ月以内)に体重減少効果が実感されやすいのに対し、メトホルミンの効果はより緩徐で、評価には6~12ヶ月以上の期間を見ることが多いとされます。

コスト・利便性比較

コスト面では大きな差があります。

メトホルミンは後発医薬品が多数存在し非常に安価です(保険適用外でも月額数百円~数千円程度)。
一方、セマグルチド製剤(オゼンピック®、ウゴービ®、リベルサス®)は先発品しかなく高価です(保険適用外の場合、月額数万円~十数万円)。
肥満症に対する保険適用はウゴービ®など一部に限られ条件も厳格なため、多くの場合、自己負担額が大きな障壁となります。

投与経路・頻度にも違いがあります。
メトホルミンは経口錠剤で通常1日1~3回服用します。
セマグルチドは、オゼンピック®やウゴービ®が週1回の自己皮下注射、リベルサス®が1日1回の経口錠剤ですが、空腹時に水で服用しその後30分は飲食や他の薬剤の服用を避けるといった服薬上の注意が必要です。

利便性については、1日複数回の経口薬(メトホルミン)と週1回の注射(オゼンピック®/ウゴービ®)または服薬条件のある1日1回の経口薬(リベルサス®)では、どちらが高いかは個人のライフスタイルや好みによります。
注射への抵抗感がある場合は経口薬が好まれますが、服薬回数の少なさから週1回注射を好む人もいます。

下の表はメトホルミンとセマグルチドの主な特徴を比較したものです。

特徴 メトホルミン セマグルチド (オゼンピック®/ウゴービ®)
薬剤クラス ビグアナイド系 GLP-1受容体作動薬
主な承認適応 2型糖尿病 2型糖尿病 (オゼンピック®), 肥満症 (ウゴービ®)
体重減少効果(平均) 2-5% 15%以上 (ウゴービ®)
投与経路 経口(錠剤) 皮下注射
投与頻度 1日1~3回 週1回
後発医薬品 あり なし
月額コスト(保険適用外目安) 低 (数百円~数千円) 高 (数万円~十数万円)
主な副作用(共通) 消化器症状(下痢、悪心など) 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢、便秘など)

この比較から薬剤選択におけるトレードオフが明確になります。
セマグルチドは卓越した体重減少効果を提供しますが高コストで一般的には注射が必要です。
メトホルミンは効果が穏やかであるものの経口で非常に安価です。

医療ダイエットの文脈においては、目標とする減量幅、患者の投与経路への希望、副作用への忍容性、そして決定的に重要な経済的負担能力や保険適用の可否を総合的に勘案して個別に薬剤を選択する必要があります。
メトホルミンは費用対効果が重視される場合やより穏やかな目標設定の場合には選択肢となり得ますが、大幅な減量を目指す場合には利用可能であればセマグルチドが優先される傾向にあります。

医療ダイエットでのメトホルミン適応と注意点

メトホルミンを医療ダイエット目的で使用する場合、適切な対象者の選択、処方、およびモニタリングが極めて重要です。
メトホルミンは体重減少目的での承認はありませんが、特定の条件下で適応外使用が考慮されることがあります。

適切な候補者としては、過体重(BMI ≥ 25 kg/m²または ≥ 27 kg/m²)または肥満(BMI ≥ 30 kg/m²)であり、特にインスリン抵抗性、耐糖能異常(境界型糖尿病)、メタボリックシンドローム、PCOSといった代謝関連の併存疾患を有する個人が挙げられます。
また抗精神病薬の副作用による体重増加を経験している患者も対象となることがあります。

日本の肥満症診療ガイドラインでは、薬物療法を含む積極的な治療介入は一般にBMI 25 kg/m²以上で肥満関連の健康障害を有する「肥満症」、またはBMI 35 kg/m²以上の「高度肥満症」が対象となります。
メトホルミンの適応外使用も、これらの一般的な薬物療法開始基準を満たす患者、特に他の高価な薬剤が使用できない場合に考慮される可能性があります。

処方に関する考慮事項として、投与前には禁忌(特に重度の腎機能障害:eGFR < 30 mL/min/1.73m²)やリスク因子(重度の肝機能障害、過度のアルコール摂取、脱水など)がないかを慎重に評価することが不可欠です。
消化器系の副作用を最小限に抑えるため、低用量(500 mgを1日1回または2回)から開始し、1~2週間ごとに500 mgずつ忍容性を見ながらゆっくりと増量します。

体重減少目的の有効性が期待される用量として、1日あたり1500~2000 mg(最大2550 mg)を2~3回に分けて服用(普通錠)または1日1回服用(徐放錠)することが多いようです。
抗精神病薬による体重増加に対しては750~1500 mg/日が目安となることもあります。

徐放性製剤(ER/XR)は消化器症状の軽減や1日1回投与の利便性から選択されることがあります。
消化器症状を軽減するため、食中または食後に服用することも推奨されます。

必須のモニタリングとして、投与開始前にeGFRを確認し、その後は少なくとも年1回、腎機能低下リスクのある患者ではより頻繁(3~6ヶ月ごと)に測定します。
eGFRの値に応じて用量を調節または中止する必要があります。
長期使用者や欠乏症状が疑われる場合はビタミンB12の血中濃度を定期的に測定し、必要に応じて補充を検討します。

患者教育も重要です。消化器症状への対処法、乳酸アシドーシスの初期症状とその際の対応、十分な水分補給の重要性、過度のアルコール摂取の回避、ヨード造影剤検査や手術前の休薬の必要性など、そして何よりも生活習慣改善の継続が不可欠であることを十分に説明し理解を得ることが重要です。

 

項目 詳細
主な対象候補 過体重/肥満でインスリン抵抗性/耐糖能異常/PCOS/AIWGなどを有する患者
開始用量 500 mg 1日1~2回 または 850 mg 1日1回
増量方法 1~2週ごとに500 mg/日ずつ、忍容性を見ながら漸増
目標用量範囲 1500 – 2000 mg/日 (分割投与 or 徐放錠1日1回)
最大用量 2550 mg/日
主な禁忌 (腎機能) eGFR < 30 mL/min/1.73m²
腎機能モニタリング頻度 開始前、年1回以上。リスク因子あれば3~6ヶ月ごと
B12モニタリング 長期使用者、欠乏症状あれば考慮
重要な患者指導 GI症状対策、乳酸アシドーシス症状の認識、水分補給、アルコール制限、休薬ルール、生活習慣改善の必要性

メトホルミンが体重減少目的で承認されておらず効果も限定的であることから、適応外使用を行う際には通常の適応疾患に対する使用時以上の慎重さが求められます。
処方する医師は期待される効果の限界と潜在的リスクについて患者と十分に情報を共有し、必須のモニタリングと生活習慣改善の継続を徹底する必要があります。

まとめ

メトホルミンはGDF‑15を介した食欲抑制やインスリン感受性改善により、平均2〜5%の軽度な体重減少が認められる経口血糖降下薬です。
臨床研究では1〜3kg程度の減少が報告され、GLP‑1受容体作動薬に比べると緩徐かつ限定的な効果となります。
下痢・悪心などの消化器症状や稀な乳酸アシドーシス、ビタミンB12欠乏といったリスクを理解し、低用量からの漸増と定期的なモニタリングが安全使用の鍵です。
薬剤単独ではなく、食事・運動といった生活習慣改善を併用することが、持続的な体重管理に不可欠です。
メトグルコ®などのメトホルミン製剤は、オンライン診療で全国どこからでも初診・再診ともに来院不要で処方が受けられます。
近江今津駅前メンタルクリニックのメディカルダイエットでは、専門医による無料オンライン診療と明瞭な料金プランで、メディカルダイエットを手軽にスタートできます。
安全かつ効果的なメトホルミンダイエットを検討される方は、まずオンライン診療でクリニックに相談してみましょう。

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