AGA(男性型脱毛症)治療を始めたものの、「抜け毛が増えた」「治療前よりも症状が悪化した」と感じ、不安を抱えている方は少なくありません。

薄毛改善のために始めた治療で逆に抜け毛が増えるという現象は確かに心配になるものです。

しかし、この「初期脱毛」と呼ばれる現象は、多くの場合AGA治療が効果を発揮し始めている過程で見られる一時的なものなのです。

この記事では、AGA治療における初期脱毛について、定義から原因、期間、対処法まで医学的情報に基づいて詳しく解説します。

正しい知識を身につけ、不安を和らげ、安心して治療を継続するための情報をお届けします。

初期脱毛とは

初期脱毛はAGA治療を開始した多くの方が経験する現象です。
治療薬の使用により一時的に抜け毛が増加しますが、これは治療効果の現れと考えられています。
初期脱毛を理解することで、治療継続への不安を軽減できるでしょう。
では、初期脱毛とは具体的にどのような状態なのか、詳しく見ていきましょう。

初期脱毛の定義

初期脱毛とは、AGA治療薬(特にミノキシジルや、一部報告ではフィナステリド・デュタステリドも含む)の使用を開始した後、比較的早い段階で一時的に抜け毛の量が増加する現象を指します。
これは多くの場合、治療薬が毛髪の成長サイクル(ヘアサイクル)に作用し、正常化を促している証拠と考えられます。
つまり、副作用というよりは、治療効果が現れる前兆、髪が生え変わるための「リセット期間」と捉えることができるのです。
ただし、AGA治療を受けているすべての人に初期脱毛が起こるわけではありません。
初期脱毛が起こらないからといって、治療効果がないわけではないことを理解しておく必要があります。

初期脱毛が起こるタイミング・期間

初期脱毛は、一般的にAGA治療薬の使用を開始してから10日~1ヶ月後(特に2週間~1ヶ月後とされることが多い)に自覚されることが多いです。
抜け毛が増加する期間は、通常1ヶ月~3ヶ月程度続くことが多いとされています。
抜け毛のピークは、開始後1~2ヶ月で見られることが多く、その後はヘアサイクルが安定するにつれて、徐々に抜け毛の量は落ち着いていきます。
開始時期や継続期間、抜け毛の量には個人差が大きいことを強調しておく必要があります。

治療開始から約6ヶ月~1年後(情報源によっては6~7ヶ月目)に、再び一時的に抜け毛が増える「2回目の初期脱毛」と呼ばれる現象が起こる可能性も指摘されています。
これは、治療によって生えてきた新しい髪が、さらに強く丈夫な髪へと生え変わる過程、あるいはさらなるヘアサイクルの同期化によるものと考えられ、これも治療が順調に進んでいる証拠の一つと捉えられます。
初期脱毛を経験しない人もいるため、初期脱毛の有無だけで治療効果を判断することはできません。

初期脱毛の原因・メカニズム

初期脱毛が起こる理由を理解することは、不安を軽減し治療を継続する上で重要です。
治療薬がどのように髪の成長サイクルに影響するのか、そのメカニズムを詳しく解説します。

ヘアサイクルの正常化と抜け毛

髪の毛は、一定の周期で生まれ変わりを繰り返しています。
この周期は「ヘアサイクル」と呼ばれ、主に以下の3つの期間から構成されます:

  1. 成長期(Anagen):毛母細胞が活発に分裂し、髪が太く長く成長する期間。通常2~6年続きます。
  2. 退行期(Catagen):毛根の成長が止まり、毛球部が縮小して抜け毛の準備が始まる期間。約2~3週間です。
  3. 休止期(Telogen):髪の成長が完全に停止し、毛根が浅い位置に移動して自然に抜け落ちるのを待つ期間。約3~4ヶ月続きます。

AGAを発症すると、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)の影響などにより、このヘアサイクルが乱れます。
特に成長期が数ヶ月~1年程度に短縮され、髪が十分に太く長く成長する前に退行期・休止期へと移行してしまいます。
その結果、細く短い、いわゆる「軟毛」が増え、抜け毛が目立つようになります。

AGA治療薬は、この乱れたヘアサイクルを正常な状態に戻すように働きます。
治療薬が作用し始めると、休止期に入っていた毛包が刺激されたり、本来よりも早く次の成長期に入るように促されたりします。
このヘアサイクルの正常化プロセスにおいて、新しく健康な髪の毛が毛根内で成長を始めると、その上にある古い休止期の毛髪が押し出される形で抜け落ちます。
多くの毛包でこのプロセスが比較的同時期に起こるため、一時的に抜け毛の量が普段より多くなる、これが初期脱毛の基本的なメカニズムです。

初期脱毛で抜ける毛は、AGAの影響で弱々しくなった細く短い毛が多いとされますが、休止期に入っていた比較的太い毛が抜けることもあります。
これは、治療効果によってヘアサイクルがリセットされる過程で、すでに寿命を迎える段階にあった毛髪が抜けるためと考えられます。

薬剤別メカニズム

AGA治療に用いられる主な薬剤によって、初期脱毛の起こりやすさやメカニズムに違いが見られます。

  • ミノキシジル(Minoxidil):ミノキシジルは、毛母細胞を直接活性化し、血行を促進することで発毛を促す「攻め」の治療薬です。休止期の毛包を強制的に成長期へ移行させる作用が比較的強いため、古い毛髪が新毛に押し出されるプロセスが活発に起こり、初期脱毛がより起こりやすく、また顕著になる傾向があります。この作用は、外用薬(塗り薬)でも内服薬(飲み薬)でも見られますが、全身に作用する内服薬の方が初期脱毛が起こりやすい、あるいは強く出やすい可能性があります。
  • フィナステリド(Finasteride)/ デュタステリド(Dutasteride):これらは5α還元酵素阻害薬と呼ばれ、AGAの主な原因であるDHTの生成を抑制することで、ヘアサイクルの乱れを根本から改善し、抜け毛を防ぐ「守り」の治療薬です。DHTが減少することで、短縮されていた成長期が徐々に正常な長さに戻り、新しい健康な髪が育つ環境が整います。

以下の表は、薬剤タイプによる初期脱毛の特徴をまとめたものです。

特徴 ミノキシジル フィナステリド / デュタステリド
主なメカニズム 毛母細胞の直接刺激、成長期への強制移行 DHT抑制によるヘアサイクルの段階的な正常化
発生頻度 比較的高い、一般的 ミノキシジルより低いとされるが見解に相違あり。起こる可能性は報告されている
典型的な強度 比較的顕著な場合がある 起こる場合、ミノキシジルより軽度な可能性があるが、個人差が大きい
開始速度 比較的早い(例:開始後10日~) ミノキシジルと同程度か、やや遅い可能性も示唆される(例:開始後~1ヶ月)
主に抜ける毛髪タイプ AGAによる軟毛が多いが、休止期の太い毛も含む AGAによる軟毛が中心と考えられる

ひどい初期脱毛は正常か?判断基準と注意点

AGA治療を開始して抜け毛が増えると、「これは正常な初期脱毛なのか、それとも異常なほどひどいのか?」と不安になるのは当然です。
ここでは、その判断基準と注意すべき点について解説します。

症状がひどい場合の原因

まず、健康な人でも1日に50本~100本程度の髪の毛は自然に抜けています。
初期脱毛の期間中は、この量が一時的に2~3倍(例えば1日に100本~300本程度)に増えることがあります。
「ひどい」と感じるかどうかは、主観的な側面が大きい点に注意が必要です。
もともとの髪の密度が低い方、髪が長い方(抜けた毛が量が多く見える)、または不安感が強い方は、実際の抜け毛量が正常範囲内であっても「ひどい」と感じやすい傾向があります。
初期脱毛によって一時的に頭皮が透けて見える(「スカスカに見える」)ことも、不安を増大させる一因です。

もし客観的な基準で異常が見られない場合、主観的に「ひどい」と感じるほどの抜け毛は、もともとAGAによってヘアサイクルが大きく乱れていた状態が、治療によって強力に正常化されつつあるサインである可能性も考えられます。
特に、AGAがある程度進行していた方ほど、初期脱毛が目立ちやすい傾向があります。

異常な脱毛の見分け方

以下のいずれかのサインが見られる場合は、通常の初期脱毛の範囲を超えている可能性があり、医師への相談が推奨されます。

  • 期間が長すぎる:抜け毛の増加が3ヶ月以上経っても改善する兆しが見られない場合。
  • 量が異常に多い:抜け毛の量が連日非常に多い状態が続く場合(例えば、常に1日300本を超えるなど、ただし明確な基準は定めにくい)。
  • 抜ける毛髪の質

    • 抜ける毛の大半が、太く健康に見える長い毛である場合(初期脱毛は細く短い毛が多いが、太い毛も混じることはある)。
    • 毛髪が途中で切れている(切れ毛)場合。
    • 毛根の状態が異常な場合(正常な休止期の毛根は、マッチ棒の先端のように少し膨らんだ白い塊が付いている)。
  • 頭皮の異常:強いかゆみ、持続する赤み、痛み、大量のフケ(特に黄色っぽくベタつくもの)、湿疹、できものなど、明らかな頭皮の炎症症状を伴う場合。これは初期脱毛そのものではなく、薬剤への過敏反応や脂漏性皮膚炎などの可能性があります。
  • 脱毛のパターン:AGAの影響を受けやすい前頭部や頭頂部だけでなく、側頭部や後頭部も含めて全体的に均一に抜ける場合(びまん性脱毛症の可能性)、あるいは円形や楕円形に境界明瞭な脱毛斑が出現した場合(円形脱毛症の可能性)。

以下の表は、一般的な初期脱毛と注意すべきサインの違いをまとめたものです。

特徴 一般的な初期脱毛 注意すべきサイン(医師への相談を推奨)
期間 通常1~3ヶ月で徐々に落ち着く 3ヶ月以上改善なく続く
一時的に通常の2~3倍程度に増加 連日、異常に多い状態が続く(例:>300本/日)
抜ける毛のタイプ 細く短い毛が多いが、太い毛も混じる 太く長い毛が大部分を占める、切れ毛が多い、毛根の異常
頭皮の状態 基本的に正常(軽い刺激感を感じる場合あり) 強いかゆみ、赤み、痛み、大量のフケ、湿疹など明らかな炎症
脱毛パターン AGAの影響範囲(前頭部・頭頂部)でびまん性(全体的)に増加 境界明瞭な円形・楕円形の脱毛斑、側頭部・後頭部も含めた全体的な脱毛
その他の症状 特になし 全身倦怠感、体重変化、その他の体調不良など

これらの注意すべきサインが見られた場合は、自己判断せずに、処方を受けた医師または皮膚科専門医に速やかに相談することが極めて重要です。

初期脱毛を乗り越えるケア方法

 

初期脱毛は一時的な現象とはいえ、精神的な負担が大きいものです。
この期間を少しでも快適に、そしてその後の健全な発毛をサポートするためにできるケア方法を紹介します。
AGA治療薬の継続が最も重要ですが、以下のケアを併せて行うことで、より良い結果につながる可能性があります。

生活習慣の改善

健康な髪を育むためには、土台となる身体全体の健康が不可欠です。

  • バランスの取れた食事:髪の主成分であるタンパク質(ケラチン)をはじめ、その合成を助ける亜鉛、血行や代謝に関わるビタミンB群、抗酸化作用のあるビタミンC・E、酸素運搬に必要な鉄分などをバランス良く摂取することが重要です。過度な脂質や糖質の摂取は控えましょう。
  • 質の高い睡眠:睡眠中に分泌される成長ホルモンは、髪を含む体の組織の修復・成長に不可欠です。毎日決まった時間に就寝・起床するなど、規則正しい睡眠習慣を心がけましょう。
  • ストレス管理:過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、血行不良を引き起こして髪の成長に悪影響を与える可能性があります。適度な運動、趣味、入浴、瞑想などで、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
  • 禁煙・節酒:喫煙は血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させます。過度の飲酒は、AGAの原因物質であるDHTを増加させる可能性や、髪に必要な栄養素(アミノ酸、ビタミン)を消費してしまう可能性があります。禁煙、または節酒を心がけることが望ましいです。

頭皮ケア(マッサージ、シャンプー選び)

初期脱毛期間中は、頭皮を健やかに保つことも大切です。

  • 優しいシャンプー:頭皮への刺激が少ないアミノ酸系などのマイルドな洗浄成分のシャンプーを選びましょう。爪を立てず、指の腹を使って優しく洗い、すすぎ残しがないように十分に洗い流します。洗髪後はタオルで優しく水分を拭き取り、ドライヤーで適切に乾かし、頭皮を清潔に保ちましょう。
  • 頭皮マッサージ:指の腹を使って、頭皮全体を優しく揉みほぐすマッサージは、血行を促進し、毛根への栄養供給を助ける可能性があります。ただし、強く擦ったり、長時間行ったりすると逆効果になる可能性もあるため、1回5分程度を目安に、気持ち良いと感じる強さで行いましょう。
  • 刺激を避ける:パーマやカラーリングなどの化学処理、過度な熱を加えるスタイリング、髪を強く引っ張るような髪型は、頭皮や毛髪への負担となるため、この期間中はできるだけ避けましょう。

食事・サプリメント

バランスの取れた食事が基本ですが、補助的にサプリメントを活用することも考えられます。

重要栄養素と食品例は以下の通りです。

  • タンパク質/アミノ酸: 肉類(鶏ささみ、牛赤身、豚肉)、魚介類(サバ、アジ、鮭)、卵、大豆製品(豆腐、納豆)、乳製品。
  • 亜鉛: 牡蠣、レバー、牛肉、豚肉、ナッツ類(アーモンド、カシューナッツ)、種子類(かぼちゃの種)、大豆製品、ゴマ。
  • 鉄分: レバー、赤身肉、貝類(シジミ、アサリ)、ほうれん草、ひじき、大豆。
  • ビタミンB群(特にビオチン、B6):レバー、卵、肉類、魚類(マグロ、カツオ)、ナッツ類、豆類、バナナ、緑黄色野菜。
  • ビタミンC: 柑橘類(レモン、オレンジ)、イチゴ、キウイ、ブロッコリー、パプリカ、ピーマン、じゃがいも。
  • ビタミンE: ナッツ類(アーモンド)、植物油、アボカド、緑黄色野菜、魚介類(サバ、サンマ)。
  • ビタミンD: 魚類(サケ、サバ、イワシ)、卵黄、きのこ類(干し椎茸)、強化乳製品。
  • イソフラボン: 大豆製品(豆腐、納豆)。
  • オメガ3系脂肪酸: 青魚(サバ、イワシ、サンマ)、アマニ油。

亜鉛、ビオチン、各種ビタミン・ミネラル、ノコギリヤシ(Saw Palmetto)などが育毛関連サプリメントとして販売されています。
しかし、サプリメントはあくまで食事の補助であり、AGA治療薬の代わりにはなりません。
効果の科学的根拠が限定的なものも多く、過剰摂取はかえって健康を害する可能性があります(特に亜鉛、ビタミンAなど)。
また、他の薬剤との相互作用の可能性もあるため、サプリメントを利用する場合は、必ず事前に医師や薬剤師に相談し、品質の確かなもの(例:GMP認定工場製品)を、推奨される摂取量を守って使用することが重要です。

まとめ

AGA治療で一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」は、ヘアサイクル正常化の証拠であり決して異常ではありません。
多くの場合、治療開始後2週間~1ヶ月で始まり、1〜3ヶ月程度で落ち着きます。
初期脱毛がひどいと感じても、それは古い弱い毛が押し出され、強い新毛が育つ前兆と捉えましょう。
抜け毛の増加が不安なときには、オンライン診療で薬の調整や専門的アドバイスを受けることが効果的です。

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AGA治療は正しい知識と手厚いサポートで、無理なく続けることが大切です。

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